
Tom
- Nov 20, 2021
『ほしのこえ』(考察編)
本稿は、映画版『ほしのこえ』に関して、ノベライズ版をヒントに以下、本編の考察していく。 新海誠本人が小説を書いているわけではないが、執筆者は、劇中の数秒の描写も細かく書いているので、本編の短い描写の意味がより味わえる。また一方で、新設定を加えることの功罪も分かっていながら執筆している苦労も述べられている。いいずれにしても、「あとがき」にあるように十分に原作を解釈してから「物語を少しふくらませてみた」ことから、小説晩から映画版の深みを味える。 ※以下、映画の本編のネタバレあり。 金字塔的な冒頭シーン 本作は「セカイ系」の代表的な作品とされている。その確かな定義はないものの、概して世界の運命を背負った主人公(主にヒロイン)とそれを見守る主人公(主に非力なヒーロー)の両者が、その重い運命に反して内省的な描写を中心に描いていくジャンルである。一方で、この映画の最初にくる「世界って言葉がある」という印象的な映画冒頭のシーンがある。「セカイ(系)」というフレーズが私たちの定義決めに無意識に、しかしはっきりと影響を与えたのだ。私は、ここに「セカイ系」という言葉

Tom
- Nov 13, 2021
写真家の厳しさ
Facebookは子どもが生まれた日にアカウントを取得した。各国に散らばっている学生時代の仲間の近況を知ったり、連絡を取り合ったりするのに便利だ。そしてその主たる楽しみは、家族との思い出を綴ることだ。複数の写真や動画をアップロードでき、簡易的な育児日記になっている。(だから一般には公開していない。)英語で書くことで、海外の友達も読むことができるので便利だなとつくづく思う。 一方で、写真家は、基本的に写真だけで勝負することになるのだから厳しい世界だ。私の記事のように徒然なるままに細く説明を書くことはできない。あるテーマや伝えたいことを明確に万人に伝わるようにしなかればならない。作品の受け手は表出されているものを解釈し、補足しているのを解釈する必要があるだろう。それは写真を見る楽しみでもあるし、難しさでもあると思う。 「Pitch Grant(ピッチグラント)」という若手写真家を対象にした助成金プログラムがある。。写真コンテストで優勝者には、助成金10万円が支給されるのだが、予選通過者のファイナリストは、自分の作品の価値を言葉で伝えてもらう。主催者の
Tom
- Nov 1, 2021
早稲田の古書店街
大学受験の12月の午後だった。高田馬場の駅を降りてとぼとぼと、でも心の中はぎらついたものを持ちながら歩いた。大学受験の第一希望は早稲田大学の社会学部と決めていた。globeの『Winter comes around again』を聴きながら、もう受験勉強は今年で終わりだと心に誓っていた。1浪してどこも合格できなかったらきっともう親は助けてくれないだろうから。 明治通りの交差点を抜けると、通りに面して古本屋が現れる。おそらく最初に左手に見えたのは平野書店、三楽書店、文省堂書店だろう。私はそのままいろいろな古書を横目に見ながら西門通りに入り、おそらく八幡坂まで戻ってきて南門を過ぎて正門に行ったようだ。「馬場歩き」の中でも「古本屋巡り」としてはベストな道順であったかもしれない。ちなみに、帰りは早稲田通りの反対側を歩いたので、本棚にいろいろな赤本が並んでいたのを記憶している。 長年の夢が叶って早稲田に通うことになったが、今度は自転車で早稲田通りから西門通りを疾走することになった。授業に間に合うことが第一優先だったから、古書は奥から手前に猛スピードで流れる