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『ホモサピエンス全史(上)(下)』〜驚愕の俯瞰的歴史観〜

  • Writer: Tom
    Tom
  • Mar 17
  • 2 min read

 著者のユヴァル・ノア・ハラリは、イスラエルの歴史学者及び哲学者で、ヘブライ大学で教鞭を取っている。本書の『ホモサピエンス全史(上)(下)』は、人類の誕生から現在までの世界通史を述べた大著である。他にも、『ホモ・デイス(上)(下)』などの」世界的なベストセラーがあり、本書に限って言えば、世界で2100万部以上の売り上げを誇っている。

 本書が特筆すべきなのは、世界史を理解するための斬新な俯瞰的視野である。本書を読むと、私たちが歴史に関して多くの偏見や先入観、固定観念などにいかに縛られているかに気づくであろう。それを論理的かつ様々なエビデンスやデータ、思考実験を通して私たちに真新しい歴史観を提示してくれるのだ。従来の多くの著書が通史を辿る場合は、王朝の復興や衰退、革命や戦争といった「大きな」史実や事件を転換に章立てられているが、著者は、「認知革命」「農業革命」「科学革命」の3部構成にし、そこでの重要ファクターをもとに論理的に分析していく。未解決な部分や推測の域を出ない部分も丁寧に描写しながら、ホモ・サピエンスの歴史の本質を常に逃さないところが世界的な知の巨人の出現と言われる所以だろう。

 本書の中で特筆すべき概念の一つが、「虚構」である。それは、人類が持つ想像上の共通概念の秩序のことであると筆者は定義する。人類が認知革命において、この「虚構」という概念を習得し、まず文化と歴史の基礎を作り上げた。そこから「未来」を意識することで農業革命に繋がり、虚構は、貨幣・帝国・宗教へと発展していった。続いて、科学革命ではそれらが資本主義と産業革命として興隆し、現在の平和な社会へと繋がっていると筆者は述べている。私たちが漠然と感じてはいる歴史観でさえもが、それを論理的歴史観へ昇華させ、私たちに新たな驚嘆を呼び起こす。

 また筆者は、歴史は未来を予言するのではなく、私たちの視野を広げ、未来への顔能性を吟味することが大切だと述べている。私たちが生きる意味や、今後の人類の発展しうる可能性までを哲学的に提示している。本書は、歴史を通して私たちが何を幸福とし、何を望んでいくかを切に考え得る機会も提供するのである。




※参考文献

ユヴァル・ノア・ハラリ、(2016 9 30)、『ホモサピエンス全史(上)(下)』、河出書房新社

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