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『世界一しあわせなフィンランド人は幸福を追い求めない』〜「人生の意味」をアカデミックに考える〜

 フィンランドは世界幸福度ランキングで2年連続(2018年・2019年)で世界一位にランクインした。それ以前にも、フィンランドはフィンランド・メソッドで世界的な注目を集めていたため、家族が紹介してくれた。目次を眺めると、1部「人間はなぜ人生に意味を求めるか」、2部「人生の意味とはー新時代の視点」、3部「より意味深い人生のために」となっている。

 この本の主題は、人生に意味に関する考察だ。そしてもしあなたがフィンランドに興味があり、その側面からの解説を期待すると裏切られることになるだろう。残念ながらフィンランド人に関する考察はほとんどないからだ。本文全体がフィンランドとはほど遠い場での議論となってる。確かにそれは原書のタイトル、”A WNDERFUL LIFE: INSIGHTS ON FINDING A MEANINGFUL EXISTENCE”からも分かる。つまり、邦訳は翻訳者の意訳なのである。失礼を承知で言わせてもらえば、これは「誤訳」だろう。(「世界一幸せなフィンランド人」が作者を示すならロジックは通るが、誤解を招くことは必至だ。)

「生きる意味とは何か。」私たちー過去の偉大な歴史人物も含めてー苦しめられた難問に出している。筆者は、フィンランド出身の哲学者かつ心理学者であり、哲学と組織論の2つの博士号を追っているが、研究内容はまさに「人生の意味」であるという。彼は、「自己実現」「他者貢献」という2つのキーワードに辿り着くために、心理学、宗教、歴史、文学、文化といった幅広い知見とデータなどから考察していく。つまり、これは個人の人生観を述べたものでなく、広い範囲の学術的視野から論理的に「人生の意味」を展開していくアカデミックな論考である。

 筆者は現代社会の課題及びそこに含まれる用語定義を丁寧におこなう。次に宗教時代と科学時代を対比し、私たちが「生きる意味」を求め、あがき苦しむ理由(=実存的危機)を明確にしていく。最後に、「自己決定理論」が紹介され、それによって自分の価値体験を作る。この本を読んで、「人生の意味」に気づき、人生を意味深いものにする読者もいることだろう。



※参考文献

フランク・マルテラ (著), 夏目大(訳)、(2021 3 22)、『世界一しあわせなフィンランド人は幸福を追い求めない』、ハーパーコリンズジャパン

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