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『夜と霧』(新版)〜「生きる意味」のコペルニクス的転換〜

 人は辛い状況に置かれた時に、その因果関係を追求する傾向があるのだと思う。例えば、困っている従業員は「なぜこんな会社のために働いているんだろう」と考える。個人的には、言うまでもなくあのアウシュビッツの強制収容所に比べたら比較にならないほど幸運であるが、それでも「なぜ生きているのだろう」と考えることが多い。従って本著は「生きる意味」を当事者として読めたように感じる。

 『夜と霧』の主人公は、第二次世界大戦で強制収容所に送り込まれた精神科医の筆者が、単なる歴史的事実ではなく、冷静な心理分析を通して、人間や人生の意味を追求していく。旧版は、原著は1946年に出版され、霜山徳爾が訳していて、一方の新版は、その後著者によって改定された後に、解説と写真を除き池田香代子が訳したものである。

 想像を絶するような大多数が精神崩壊または不幸な死を遂げた極限の場所の記述は就寝前に読むと眠れなくなるほど生々しく感じる。だからこそ筆者がその環境で到達することのできた心境や真理が毅然と立っている。そこでは、生きることの意味をまったく逆の意味を持って提唱している。「生きる意味について(中略)わたしたちが生きることから何を期待するかではなく、むしろひたすら、生きることがわたしたちから何を期待しているかが問題なのだ。」

 わたしたちが人生に対して何かを期待するのではなく、人生の方が私たちに何かを期待しているのだから、今を必死に生きるということである。今を苦しみ、死を含めて自分が何をするのかが重要だ。私は、この「コペルニクス的転回」で例の問いに完全解答できたわけではないが、この筆舌し難い悲惨な状況を奇跡的に生き延びたことで生まれた世界的名著の語る「生きる意味」は永遠に語り継ぐ必要があると考えている。圧倒的な文学作品を前にまるで海の水をすくったようなレビューしか書けないこといももどかしさと申し訳ない気持ちが残っている。



※参考文献

ヴィクトール・E・フランクル (著), 池田 香代子 (翻訳)、(2002 11 6)、『夜と霧』(新版)、みすず書房

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