『持続可能な医療』〜医療を俯瞰的に問い直す〜

 体調を崩して病院へ行く。私はここでいつも何か苦虫を噛み潰す気持ちになってしまう。医療情報と金銭権力を持っている大病院、計算根拠が複雑な診療報酬点、二度手間感じる院外処方箋。これらは適正に処理・評価されていているのか。このまま家族や私の最期の日まで適切な医療恩恵を受けられるのだろうか?結局、体調が回復してしまえば、日常に忙殺され、そのときの判然としない気持ちは消えてしまう。そんな私も本書を読み進むにつれて、日本の異様な医療制度に気づくことになるのだ。

 著者の広井義典は東京大学・同大学院を、マサチューセッツ工科大学(MIT)を経て現在は京都大学こころの未来研究センター所長である。本書は、これまでの長きに渡って研究されてきた理論(著書・論文等)と多岐に渡る実践的な活動を融合させ、今後の研究テーマを示しながら、希望を持って公共的に持続可能な医療を目指している。キーワードは、科学、公共性、死生観、ケアである。

 読み始めてすぐに私が抱いていた医療への懐疑が明らかなる。つまり、今の日本の医療制度は外部関係者が医療を眺めたときに「ブラックボックス」となっていて、その内部事象の的制や評価方法などはあまりに議論されてきてない。私たち医療弱者は選択肢のない奴隷のようなものだ。今後、持続可能な医療たるための医療科学から公共性、そして死生観まで含めて広く議論されている。医療従事者や地域コミュニティーといった研究分野まで必読書であるといえる。そこで、筆者は、深い知見と長い経験を生かして、以下を提言していく。それは、医療技術向上の指針、医療費の分配問題、医療に学問や個人を超えた関係性・多様性といった「ケア」の視点、コミュニティーの役割、BI・福祉補償といった社会保障の確率までであある。筆者はさらに現代の死生観論までを前衛的にチャレンジしている。

 本書は約250ページであるが、その小項目には複数の文献(その中の多くは著者の論文を含む)の要旨を踏まえて書かれている。医療を核としながら俯瞰的に膨大な知識と理論が展開されている。持続可能な医療のために複数の要素を炙り出し、1つずつ論理的に吟味していく貴重な文献である。


※参考文献

広井良典、(2018 6 10)、『持続可能な医療』ちくま書房

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