『生命と記憶のパラドクス』-福岡ハカセ、66の小さな発見-〜教養エッセイ集の見本〜
本書は66のエッセイ集から成り立っているが、理系分野の難解な用語はない。そもそもこれらは『文藝春秋』の連載記事を再編集したものだ。一般読者を想定して書かれているから、3ページ程度のエッセイはさらっと読める。
著者は福岡伸一氏で分子生物学者を専門としている青山学院大学教授だ。テレビ等にも出演し、本人の名前がクイズになるほど著名である。ベストセラー『生物と無生物の間』以外にも著書が多い。
それにしても、文章はユニークで最後のオチまで秀逸だ。そして、著書を読めばすぐ分かるのだが、とにかく読み手を惹きつける文章で、しっとりと終わる文章もあれば、落語のオチのような面白さもある。前書きや後書き、表紙を含めて構成が練られている。ただ、タイトルも含めて文庫本化するために無理に入れ込んだ感はあるが、それは仕方のないことなのだろう。
サブタイトルに「小さな」とあるが、特に高校生には学んで欲しい「大きな」教養が含まれている。自分の専門分野に関してこれだけ読み応えがある文章を書けたら幸せだろうなと思う。
※参考文献
福岡伸一、(2015 3 10)、『生命と記憶のパラドクス -福岡ハカセ、66の小さな発見-』文藝春秋
Recent Posts
See All独立研究科の森田真生はエッセー州の中で次のように述べている。「コンピューターはあまりにもユーザーに寄り添い過ぎてしまった。便利になることはありがたいが、結果として私たちは、生まれ変わろうとする主体的な意欲を失っているのではないか」(『数学の贈り物』)コンピューターリテラシー...
体調を崩して病院へ行く。私はここでいつも何か苦虫を噛み潰す気持ちになってしまう。医療情報と金銭権力を持っている大病院、計算根拠が複雑な診療報酬点、二度手間感じる院外処方箋。これらは適正に処理・評価されていているのか。このまま家族や私の最期の日まで適切な医療恩恵を受けられるの...
厚生労働省は2016年の新規の癌患者は99万人を超えたという統計データを発表した。これは国立がん研究センターによると、すべての病院に報告を義務化したことによって初めて得られた集大成のデータだと言う。癌の治療法は年々向上しているが、それでも多くの人が深刻に捉える病気の1つであ...
Commentaires