• Tom Kurihara

『老人と海』(福田恆在訳版)〜ロストジェネレーションの希望と勇気〜

 読み出したら止まらない。ストーリーは老人が海に漁に出かけ奮闘しするという単純なものであり、それを老人の内面と客観的な事実のみで書かれる、いわゆる「ハードボイルド」の手法で描かれてる。余計な伏線を省いて淡々と、しかし臨場感が洗練された言葉はアメリカ文学の金字塔であり、読者はノーベル文学賞作品の圧倒的な筆力を感じるだろう。

 著書はノーベル文学賞作家であるアーネスト・ヘミングウェイだ。1899年イリノイ州生まれで生まれ、第一世界大戦後を経験し、その無意味さ、文明の無力さからアメリカから離れていった。彼もアメリカ社会との繋がりを失った当時の文学者「ロスト・ジェネレーション」の代表的作家の1人である。代表作は『我らの時代に』『日はまた昇る』『武器よさらば』『誰がために鐘は鳴る』などだ。

 老人は不漁続きの中で孤独に漁に出掛けるが、これは文明からの脱却であり、人間が持つ可能性への挑戦を描いているのだろう。傷だらけになりながら、原始的な方法で大物を獲得し、それを自然の中で不幸にも失ってしまう。そこには、具体的な物は失ってしまったけれど、目には見えないものを信じようとする力、例えば、妻への愛情、共に漁をした友への親しみ、老人の最後まであきらめない気持ちや自然への畏怖といったものが含まれている。物語の後半、老人はマストを背負って坂道を上って戻る場面は、人間の犯した罪を背負うキリストを描写しているかもしれない。最後に、世界的かつ歴史的にこの名作だと言われるのは、これが夢オチであろうとなかろうと、「彼は歳を取っていた。」に始まり、「老人はライオンの夢を見ていた。」に終わることによって、私たちが老人から多くの勇気をもらい、どん底からの希望を抱くからであろう。

 本来ならこれは英語で読むべきだろう。大学時代に『我れの時代に(In Our Times)』を原文で読んで、使用される英文の、例えば日本語には表出できない前置詞の空間イメージに衝撃を受けたことを記憶している。機会があれば原文で味わいたいと思っている。

※参考文献

アーネスト・ヘミングウェイ、(1966 6 15)、『老人と海』(福田恆在訳版)』新潮文庫

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