第9回 夏の教育セミナー 2022〜高大接続改革の脆弱性〜

 第9回夏の教育セミナー(日本教育新聞・株式会社ナガセ主催)が今年もオンラインで行われた。例年以上に講座が豊富で、収穫が多く勉強になった。今年の目玉は、高等学校の新学習指導要領の施行に伴い、令和7年度の共通テストの内容とそれを考慮した授業改善だろう。特に、指導と評価の一体化の理論と実践には多くに関心が集まっていたようだ。また、カリキュラム・マネジメントや指導方法の改善による学校改革まで盛り込まれていたのがトレンドのようにも感じた。

 高大接続改革のそもそもの出発点はテクノロジーの発展だ。AIの時代に生徒が身につけておくべき資質・能力を考慮した結果、学ぶ内容だけではなく、どのように学び、そのために学校・教職員がどう指導し、大学入試改革を含めた評価方法が焦点になっている。その観点が「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、「主体的に取り組む姿勢」だ。ただ、理念や理論は立派なのだが、「公平性」を過度に求めるわりには解釈や裁量が現場任せで「不公平」な印象を受けてしまう。3観点の年間の重み付けを均等にする理由も分からないし、「主体的に学習に取り組む態度」は、理想的にはここは全生徒にAがつかないといけないのだから、33%という大きな比率で「公平に」評価できるのか。その妥当性がまったく見えてこない。

 英語指導に関して言えば、安河内哲也や山本崇雄の示すように、「知識・技能」=ペーパー試験、「思考力・判断力・表現力」=実技試験、「主体的に取り組み態度」=活動の記録等、として評価するのが一番整合性が取れるようだ。安河内哲也が提唱するAEP[Active English Program]は新時代の英語教育に向けた安河内流の改革案だ。音声重視、ICT活用、TT[ティームティーチング]、活動方授業、モチベーション維持、の5つのポイントからなっている。今後の授業改善のために、活用できそうな部分は取り入れていきたい。ただ、生徒の偏差値を上げ、合格者を出さなければいけないプレッシャー下では、少なくとも私は、その指導法と実際の個別試験等とのギャップを埋める確かな方法論が確立されていないことがジレンマになっている。

 大学入学共通テストは、英語成績提供システムという英語の4技能重視の大改革になるはずだったが、さまざまな抵抗にあって頓挫してしまった。大学入試改革という点に絞れば、理論を生み出す文部科学省、理論を具現化しようとする大学(と大学入試センター)、そしてその狭間で実践に取り組む高等学校と、それぞれが微妙に歯車が合わずに、さらに言えば、安河内哲也氏の理念の方が時代を先に行っていて、そこにいつまでも埋まらない齟齬があるように感じる。大きなビジョンである高大接続改革の理念と、指導と評価の一体化といったミクロの実践まで、多岐に渡って不明確で不安定な部分が多く、現場の混乱や不安、不信感は増す印象だ。私はまだこのラビリンスから抜け出せる自信が持てないでいる。



※参考文献

第9回 夏の教育セミナー 2022、日本教育新聞・株式会社ナガセ

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