『常識外の一手』 〜棋士と経営の難しさ〜

March 8, 2018

 将棋界が大いに盛り上がっている。藤井聡太が中学生棋士として記録的な大躍進をし、羽生善治は永世七冠・国民栄誉賞を獲得した。そうした熱気の陰で忘れ去られた逆境の棋士が前将棋連盟会長の谷川浩司である。棋士が対局中に携帯電話を不正に使用したのではないかという疑惑に対する連盟対応の責任を取る課題で辞任をした。

 本書のエッセンスは、「常識を十分にわきまえた上で、あえて『常識を外れる』ということ」である。その中で連盟を経営する立場での意気込みや苦悩が十分に読み取れる。例えば、著者は「光速の寄せ」の異名で数々のタイトル戦に登場したが、経営側に立つと番勝負は長引くほど収入や注目が上がるという本音まで語っている。コンピュータソフトとの対戦実現に向けて奔走する姿にも、トップとして「常識外の一手」を放ちたい気負いを感じた。

 将棋連盟は、社団法人であるためには独特の組織体制がある。それは営利団体ではないために、棋士は連盟を介して対局料や指導料などをもらっているということだ。つまり、棋士は個人経営に近いものがある。財政的にも伝統的にも経営の専門職員を雇うことが出来ず、結果的に連盟会長は棋士と経営者を兼ねなければいけないという。しかし、本当の理由は、著者の言う「伝統的」な経営手法ではないかと思う。それに棋士と経営者を同時にこなすのは不可能に近い。本書の内容を鵜呑みにすれば棋士として「適度な成績」を取らなければ成り立たないことになる。ファンが見たいのは人生を賭けた「本気の勝負」である。

 冒頭の不正疑惑では棋士のみによる危機管理の限界が話題に上ったこともある。連盟には棋士会と呼ばれる棋士で構成されている組織もある。経営陣に現場の声として棋士会が関わる形があっても良い。ただ現状は棋士が背負う経営上の負担が過度に大い。すっかり将棋フィーバーで消えつつある課題だが、今だからこそ、将来を見据えた改革が求められている。

 

 

※追記

私は谷川浩司先生の大ファンであることは付け加えておきたい。

 

※参考文献

谷川浩司、(2015 6 20)、『常識外の一手』

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