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『教育改革の幻想』 〜教育政策の光と陰〜


 学習内容を全国規模で規定するのが学習指導要領だ。過去には2002年、「詰め込み教育」から「ゆとり教育」に舵を切った時の衝撃は非常に大きかった。国としての展望が提示されるわけだから、改定されるにあたっては、その一語一句を巡って官僚や知識人が深い議論がなされていた。はずであった。本書は、彼らのロジックがいかに脆弱で、理想論に突き動かされていたかを気付かせてくれる。「ゆとり教育」が始まってすぐに出版されたにも関わらず、いまだに名著だと言われるのは、データや歴史を含めて現実に向き合った確固たる論理である。

 「詰め込み教育」の弊害が指摘され、その対策として、生徒が主体的な学習する「子ども中心主義」にシフトした。「総合的な学習の時間」や「週休二日制」などがその代表的な施策である。子どもの本性を信じ、生活に直結する「新しい学力観」は賞賛された。アメリカのロマン主義を模倣した、オープンスクールのような教育理念である。しかし、筆者は、私たちが反論し難い教育の「べき論」を提示し、それぞれ光と陰で対比させながら、私たちがいかに「幻想」の上に立っていたかを教えてくれるのである。

 確かに「詰め込み教育」と聞くと否定的な意味を持つことが多い。だからこそ、「生徒主体」の授業が輝かしく見える。例えば、英語という教科に限って言えば、アクティブラーニング[AL]のよう手法は絶対的に有効だ。しかし、本当に基本的なことを教えなければ成立しない。様々な階層が集まる公立の学校では、「主語(~は)」の意味が分からないことは珍しい話ではないし、そもそも教科書が準備できないことだってある。現実を直視せないで「詰め込み教育」を否定できないし、むしろある一定の基礎・基本がないと、生徒の主体的な学習は困難なのである。

 なるほど「子どもの学力は担保すべきだ」と言われてしまえば、それを否定するのは難しい。だが、本当に必要な議論は、「~をすることである」という「である論」だ。しっかりとその議論がなされた上で生徒の自主性を重んじた授業を確立すべきである。おっと、間違えた。自分の専門で具体的に言うならば、英語の学習は音読と矯正「である」!

※参考文献

刈谷剛彦、(2002 1 20)、『教育改革の幻想』


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