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『全解説 英語革命 2020』 〜理想と現実の狭間から〜


 「私、英語、しゃべれません。」そんなエクスキューズ(謙遜?)はらいらない。想像してほしい。音楽教室の先生が音符の読み方や音楽の歴史ばかり説明して、実際にはピアノが全く弾けなかったとしたら、それはおかしくないだろうか。だから、学校の英語教育の現場で英文法や長文の構文解析ばかりやっていて、どうして生徒が英語でコミュニケーション取ることができるだろうか。もう「受験英語」という言葉が生まれてから何年も経ってこの惨状だ。今のままでは英語をコミュニケーションの道具として使用できる人が育たない。英語教師もバカにされている。今の状況は絶対におかしい。

 このようになった原因はいいくつかある。第一に、安河内哲也が指摘するように、日本は近代化を目指す中で、「世界の文献を輸入して翻訳し、日本語で出版する翻訳文献の世界が形成された」(英語革命2020)からである。そしてそれが日本の英語教育に根付き、英語を和訳にする授業が当たり前の光景になっていた。第二に、グローバル化の中にあっても、日本では英語を身につけなくともやっていけるというモチベーションの低さがある。英語が使用できなくても高等教育は受けられるし、ある程度のビズネスは可能である。だから生徒のモチベーションが上がらないのだ。英語を広い視野で学習しようという意識が醸成されていない。第三に、大学受験や定期考査では、長文読解や文法が大勢の受験生を公正に素早く評価する方法として適しているからである。パフォーマンス評価は費用や人材の問題といった実施の困難さを伴う。だから、授業もそれに合わせた指導方法になってしまう。

 こうした状況では、自分一人の力ではどうにもならない。「先生の授業は英会話のような実践的な力は身につくけど、定期考査で点数が取りにくい」(同上)と言われてしまう。安河内氏と懇談した際には、教師の「同寮生」についても言及していた。だから結局、学校現場にある至上命題は進学校なら大学入試、進路多用校では定期試験で生徒に高得点を取らせることになる。安河内はそうした現場の声も十分に考慮した上で、大学入試は「指導要領に準拠しない試験問題」(同上)を出していると指摘している。『英語革命2020』には、これ以外にも現在の入試を歴史的な観点から説明し、これからの入試形態や実際に最先端の指導をしている学校の紹介もしている。

 常々、日本の英語入試の改革は入試科目に4技能に変えることだと信じていた。私は、およそ10年以上から将来的にTOEFLが主流になるかもしてないといた明言していた。そして、実際に2020年にTOEFL等の4技能を測定する民間試験が主流になってくる。大学入試が変われば、入試対策も変わるし、予備校を含めた現場の指導方法も変わるだろう。本来の学習とは意義や目的が異なっていても、根本から変えにはこうした荒治療しかないのである。

 もちろん、これから行われる英語入試にも問題点もある。受験生の公平性や金銭問題、それに、いまだに入試手順の詳細が明らかになっていない。学力担保の観点から異論を唱える人もいるだろ。コミュニカティヴ・メソッドに関する具体的な方法や教材等の蓄積がないし、すべての教師が一丸となって取り組む雰囲気が醸成されるかは分からない。

 今回の日本の英語教育の改革は今後の生徒の学力に大きく影響を与える。もし頓挫してしまえば、しばらくの間はまた同じような道を辿ることになるからだ。だから、私は思うのだ。4技能向上を図るべきだという教育理念に向けて、まずは改革に着手しなければいかないと。問題点が多いから先送りにしていてはいつまでたっても現状は変わらない。まずは理念に向けて方法論のベクトルを変えていこう。

※参考文献

安河内哲也、(2018 4 10)、『英語革命 2020』


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