『異文化理解』 〜「文化」を問い直す〜
昔、「アメリカ横断ウルトラクイズ」という番組があった。「ニューヨークに行きたいかぁー」というアナウンサーの台詞は、遠い異国の地に大きな憧れを抱かせるものがあった。音楽業界でもCDが全盛期の頃は横文字の歌詞が流行ったし、宇多田ヒカルがブレイクした際には、アメリカ文化の逆輸入として賞賛された。このように、日本の近代化の過程では、欧米の文化なオリエント文化よりも優位に立つことがないだろうか。私たちが無意識に、しかし確実に私たちの言動に影響を与えている文化を分析したのが本著である。
この本が出版されたのがアメリカ同時多発テロのおよそ2ヶ月前というのが皮肉だ。文化は政治や経済と一体であり、まさに「イスラム」と「キリスト」の衝突を予言したような内容になっている。筆者はその原因は、グローバル化がかえって個別の文化を際立たせる結果になったためだと分析している。だからこそ、固定な見方を脱して、複雑な要素が絡み合った混成的な文化わ見極める必要がある。また、最近では、自文化を再発見し、文化を安易に優劣をつけるない文化相対主義をとる立場もあることも説明されている。筆者の豊かな経験と幅広い知見で「異文化理解」の概説を理解する手助けになる著書だと言える。
英語教育に話を移すと、ここ数年は4技能の習得に重きが置かれている。当然のことではあるが、さらに異文化を理解して自他尊重を促すことも重要である。情報が瞬時に飛び交い、様々な価値観がぶつかり合う中で、相手を尊重しながら平和な社会を作り上げていく。私は、「異文化理解」とは、「自他尊重」に凝縮されると考えている。私たちは、そのようにして「異文化」を理解し、乗り越えながら、建設的に平和社会を創造していくことが求められると思うのである。「異文化理解」の古くて新しい課題を理解できた一冊である。
※参考文献
青木保、(2001,7,19)、『異文化理解』
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