ミステリーの真髄
名探偵と言えば誰を思い浮かべるだろうか。たぶん多くの人が『名探偵 コナン』の工藤新一(コナン)のようにキレのある推理をしてみたいと思ったことがあるだろう。なぜミステリーはこれほどまでに人を惹きつけるのだろうか。
例えば、霞流一の指摘は非常に的を射ている。「ミステリーの根源的な魅力は『謎解き』」であり、「不可解な謎が解き明かされるロジカルな推理や、その意想外な真相、それらに感動に重心を置いて構成された物語」をミステリーの根源としている。また、小説は時間軸に従って話が展開されるが、ミステリーは事件を起点に過去へ向かって推理をしていく。この画期的な「発明」の創始者このエドガー・アラン・ポーがミステリーということである。そこに「ワンダー(驚き)」の要素を入れることでエンターテイメントとして魅力ある作品になると述べている。
『金田一少年の事件簿』の編集を手掛けた樹林伸も、「常に意外性を意識しながら意識しながらストーリーを構成している」と述べている。数々の伏線を一気に回収していく、瞬間的で完成されたロジックが面白さの真髄だと思うのだ。意外性という点では、『古畑任三郎』の設定が斬新だ。冒頭から犯人が紹介され、そこから主人公がいかに犯人の仕掛けたトリックを見破るかという視点でストーリーが進むのである。だから面白い。
大学時代に囓った程度であるが、ポールオースターの『Ghosts』は、純文学のミステリーとして有名だろう。その奇妙な物語もさることながら、そこに潜在する様々な暗示を解釈していく深みもある。つまり、二重の謎解きが混在する意味での複雑な「ミステリー」だ。こうした「謎解き」を通して、自分と世界を取り巻く哲学的な問題に挑むのも悪くないだろう。
※参考文献
早稲大学校友会、(2019・2)『早稲田学報』
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