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英語民間試験導入反対論者への電話 〜隙を見せずに議論する III〜


 民間試験反対派の先鋒である京都工芸繊維大学・羽藤由美教授に改めて電話でお話をお伺いすることができたのだ。これまでの経緯は「「英語民間試験導入反対論者からの電話 ~隙を見せずに議論する II~」を参照して欲しい。

 とにかく彼女の主張としては、新テストの公平性・妥当性に大きな無理があると言う。第一に、都会と地方での受験生の受験格差を挙げていた。実際、島しょ地区でや僻地では受験センターに行くだけでも大きな負担になる。また、費用対効果の面からも生徒数が少ない学校は置き去りに去れ、都心部のエリートの育成に重きを置かれることなるという。結局、民間テストの導入は、お金に余裕のある家庭が有利であり、これらは教育格差を広げるということだ。ただ、彼女は4技能のバランスの取れた英語力の育成には賛成なのである。ただ、ひとまずこの制度が開始される前にたとえ自分とは異なる派閥とも手を組んでいる状態にあるというのだ。理想としては、国が試験を請け負うべきだと提唱している。

 彼女のこのスタンスにはホッとしたところである。しかし、議論が噛み合わない部分もあった。私は、反対意見を述べるときには代替案を持っているべきだと思っている。だから、次世代の高度な情報技術社会(Society 5.0)での試験を開発すべきだと言う漠然とした理論がしっくりこない。どうしても具体的な方法が提示してもらえなかったのが残念だ。むしろ、英語を話せる人が少ないと危惧するのなら、なおさら外的動機付けの工夫や改善が必要だと思うのだ。今までは試験がインプットばかりであったから勉強(訓練)がおざなりにされたのであって、試験内容に「スピーキング」が入るだけで理念や方法論も変わると考えている。

 電話の最後には、この民間試験導入の問題は英語教育ではなく社会の問題であり、より広い視野を持つようにと言われる始末だ。私は試験のことを分かっているつもりで理論武装には程遠い状態だった。一番隙があったのは自分だったのだ。しかし、こんな私と電話で議論をしてくれたのだから、羽藤教授には本当に感謝の一言である。

※参考文献


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