職人技は不滅である
私の祖父は大工だった。家には様々な工具が置かれていて、子どもなりに職人さんは経験則による技術が物を言う世界だということは分かっていた。大工の世界では、師匠から見て学ぶのが当たり前というのだから厳しい世界である。木材、湿度、傾きなどマニュアル化できない多くの技術が求められたのだろう。
一方で、ビジネスとしては境地に追い込まれている業界も少なくない。例えば、寄席文字書家は10人といないらしく、筆匠の人口も年々減少しているという。早稲田学法の「職人の世界」で紹介されていた。最も衝撃的だったのは、桐箪笥職人はそれを作るだけではやっていけず、かつての家具を修復し、別の家具に再生する注文に移りつつあるということだ。いずれにしても、機会による大量生産の中で職人は厳しい現実を生き抜いていかなければならないようである。
今後は、AIの時代だと言われている。だからこそ人が作り出す唯一無二の製品が求められるかもしれない。嗜好品としての価値がさらに高まるのではないかと思っているのだ。実際、インターンシップで生徒を引率しある企業を訪問したときに、手作りにこだわる革製品生産現場の様子を伺って感動した。作業工程を効率化しつつ、ほぼすべてを手作業で行う。機械化にはない魅力を後世までどのように伝えていくかを企業理念にひとつにしていた。
そういえば、子どもの頃に住んでいた実家の家屋は祖父が作ったものだ。冬は隙間風が吹く寒い家だったが、今のコンクリート建てのアパートにはない温かみがあった。だから実家は私の自慢の家だった。人間でないと作り出せない「経験」が「商品」になるのは何十年経っても変わらないし、これからも同じである。職人が製品に込める信念と確かな技術の中はいつの時代でも私たちを魅了するだろう。
※参考文献
早稲大学校友会、(2019・8)『早稲田学報』
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