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『知の体力』 〜高等学校の学びの本質〜

 大学の卒業論文には苦い思い出がある。大学受験までの思考、つまり授業の課題には常に答えがあるという固定概念のせいで、答えのない問題に自分なりの意見を見つけることがあまりなかった。一応卒論ではある程度の結論には達したが、参考書の引用や見解をなぞる部分も多くなってしまった。指導教官に喫茶店で叱られた苦い思い出もある。もし私が学生時代に新書『知の体力』を読んでいたら、卒業論文はまた違った結論になっていただろう、というのはひどい言い訳である。ちなみに、この新書は、同一年度の高校入試国語の問題として5県で出題、さらに高等学校の国語総合の教科書にも掲載された話題の一冊であることも追加していから本題に入ろう。

 著者の永田宏一は、京都大学名誉教授で歌人であり、「文学とサイエンス」の専門家として紹介されることが多い。本著の出発点は、大学生や学び続ける人に向けたものであったという。そして本書の内容は大学受験までの答えがある評価問題から、答えがないことを前提にした、本来のあるべき学問の追求という、ある種の「パラダイムシフト」の提案である。著者は、そのためにも、第一に、自分の失敗や親からの自立といったことで、自分の可能性をさらに広げていくことが重要であると述べている。第二に、他者尊重や大多数の<他人>ではなく、愛しい<相手>の関係に中で自分の輝ける場所があるといった、人生の道案内としての「思考の足場」を提示している。

 同じ教育機関であるのに、高校までのそれと大学での学びの質はまったく違う。例えば、各学校種で入学試験が行われるが、大量の受験生を公正に評価するとなると採点基準が必要となり、従って答えは基本的に1つになるように作られている。それに慣れきってしまえば、研究が主体の高等教育で急に思考のスイッチを変えることは難しい。むしろ現在は、大学が保護者面談までやるそうで、丁寧な指導は逆に最高学府としての意義を失ってしまうのではないかと主張している。研究をするため、またはそれぞれが専門分野で活躍するためには、その基礎的・基本的な知識と技能が求められるわけで、一見将来必要とは思えないような事柄でも敏感にアンテナを張る必要があるのだ。想定外の場面に対応できる知識の体系、それが「知の体力」である。「多様性」を認める、周囲から「自立」する、「価値観」は自分で決める、特にそれが「失敗」というキーワードを通して自分の血肉になると述べているのだ。

 「なぜ勉強をするのか」に対する一つの答えが本書にあり、それはそれで自分の中で消化していく必要がある。また、高大接続の観点から見ても、学びの本来あるべき姿を失っていることに違和感を抱いている。著者が「烈火の如く怒りを爆発」のは「成果発表(中略)場で、発表に対して質問が少ないとき、我慢ができなくなる」というエピソードには驚いたが、それは(その行為の是非はともかく)彼の学問に対する一貫した信念の現れなのだろう。

※参考文献

永田宏一、(2018・5・20)『知の体力』新潮新書

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