Tom
- Feb 23, 2021
『老人と海』(福田恆在訳版)〜ロストジェネレーションの希望と勇気〜
読み出したら止まらない。ストーリーは老人が海に漁に出かけ奮闘しするという単純なものであり、それを老人の内面と客観的な事実のみで書かれる、いわゆる「ハードボイルド」の手法で描かれてる。余計な伏線を省いて淡々と、しかし臨場感が洗練された言葉はアメリカ文学の金字塔であり、読者はノーベル文学賞作品の圧倒的な筆力を感じるだろう。 著書はノーベル文学賞作家であるアーネスト・ヘミングウェイだ。1899年イリノイ州生まれで生まれ、第一世界大戦後を経験し、その無意味さ、文明の無力さからアメリカから離れていった。彼もアメリカ社会との繋がりを失った当時の文学者「ロスト・ジェネレーション」の代表的作家の1人である。代表作は『我らの時代に』『日はまた昇る』『武器よさらば』『誰がために鐘は鳴る』などだ。 老人は不漁続きの中で孤独に漁に出掛けるが、これは文明からの脱却であり、人間が持つ可能性への挑戦を描いているのだろう。傷だらけになりながら、原始的な方法で大物を獲得し、それを自然の中で不幸にも失ってしまう。そこには、具体的な物は失ってしまったけれど、目には見えないものを信じよ
Tom
- Feb 19, 2021
『モラルの起源 ー実験社会学からの問い』〜規則遵守とは?〜
担任の先生が4月の学級目標や委員会等を決める一連のホームルームを学級開きという。そこで私が必ず触れるのが規則遵守の話だ。校則の意味や学級内での責任について理解させることが目的だ。今日、紹介する新書『モラルの起源』は、規則遵守の意味やモラルの重要性を科学的に推論する文献で、教育現場にも応用できる理論である。 私は学問の分類の中で、理系は生活を豊かにし、文系は心を豊かにすると考えている。本書は、その中間地点、つまり自然科学の最先端の知識を人文社会科学の知恵と融合するという試みがなされている。具体的には、人の社会を支えるモラルの本質、筆者はこれを文系学問の最重要テーマとしてメタモラルの可能性を追求してる。例えば、血縁でコロニーを構成するミツバチに対する非血縁者で社会を構成するでは人間の差異だ。人間は、個人の利益を守るためには、秩序を保つために自己犠牲してでも反社会者に罪を与える気持ちがあるここ、つまり違反者へ処罰を与えると自身が不遇の身になるという高次のジレンマを乗りこえる特性を持っていると推論するのだ。 このロジッを校則に当てはめた場合、その遵守が税
Tom
- Feb 8, 2021
『人工知能の「最適解」と人間の選択』〜 AIとの共存はあり得るか?〜
2017年2月22日、日本将棋連盟は将棋の電脳戦が終了を発表した。この時、私はこれから訪れるであろうAIとの共存時代の到来の予感として衝撃を受けた。(『電脳戦が終わる意味、2017年6月22日のブログ記事』)本書も将棋好きの筆者が同じ切り口からAI問題を議論していく。NHKスペシャル「人工知能 天使か悪魔か 2017」の続編となっている。 人工知能の第一人者が2045年のシンギュラリティを予告し、ディープラーニングが開発されることでAIが現実の私たちに及ぼす影響は大きくなりつつある。AIタクシー、AIトレーダーからAI裁判や医療事務(人事)。取材班がはるばる現地で得た証言やデータは説得力があり、主観が滲み出る箇所も、そこから生じた直感(エビデンス)として貴重である。 以下は本文からの引用であるが、「…」の部分にどんな言葉を補うかが問われている。「世界中のあらゆる司法制度は人間性の信頼の上に成り立っていなければなりません。」/「人工知能を使えば使うほど人間から遠ざかっていく…。」(122ページ)」、「人間を超える存在となった人工知能が政治家になり代