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AIと多様性の論点整理 2023

 私が初めて「ChatGPT」という言葉を聞いたのは、昨年の2月の高校入試の採点日だった。今後の学校教育のあり方を議論しながら、私は自動生成プログラムが英語学習だけにとどまらず、広い分野に影響を与える技術発展だと衝撃を受けた。私はその日を忘れられない。生成AIに関してはれブログで見解を述べたいと思っていたが、その議論の浸透度は私の想像を遥かに超えたスピードで広まっていった。

 近年、私たちは、例えばGAFAMといった様々なデジタル環境に囲まれて生活するようになった。特に最近注目されているのはメタバースだ。アバターを解して仮想現実とリアル社会が融合する「仮想実世界」を作り出し、私たちの身体性や属性を超えた存在となっている。こうした潮流の中で、人間の言動はデータとアルゴリズムに起因するといった哲学的提起や、AIの発展などによって教育がより画一的・パッケージ化されているといった指摘もある。

 さらにSociety 5.0の目指すべき原則の1つに”Diverisirty & Inclsuin”がある。この多様性[diversity]もホットな議論である。ただし、安易に「違う」ことを称賛することは、他者の困難や配慮が他人事になってしまい、世の中に分断が生まれてしまう危険性を孕んでしまう。それは障害者や認知症、まはた文化の違う人々などに人々に対して普遍的な多様性と共同性・またはその普遍性を理解する必要がある。

 このようなデジタル環境や人間関係といった外的変化と多様化の価値理解という内的変化が同時に起こっているのが現代社会である。無限大に増えるデータとネット空間に対して、現実では分断によって世界観が小さくなっていく。例えば、教育では将来的には物質的な学校はなくなり、アバターが個別最適化された授業を受けるかもしれない。しかし、リアルの世界で直接の触れ合いの中かで他者尊重多様性を理解できるのだろうか。さらに、これは大人の世界にも言えることだが、ChatGPTのような生成AIはは便利である一方、現実の社会問題に自分の言葉で向き合わず、受動的で思考停止になってしまう危惧もある。大堀精一は、このような状況を予見し「自分の内心の思いを発することが困難な時代」で、「論理的であることは(中略)この息苦しい現実から自由になり、他者への寛容性・優しさを形成していく態度につながる」と的確に述べている。(『小論文の書き方と考え方』)人間はアルゴリズムであるといった新しい人間感も登場しているが、はたして「日常の中の柔らかな論理」は単純にデジタルで置き換えられるとは考えにくにと私は考えている。

 新型コロナウイルスは完全な終息にはまだ遠いが、日本は2類から5類に移行したことでウィズコロナの時代に移行しつつある。ポストコロナ時代に向けて、これまでの政策の総括や私たちの心理面に及ぼした影響、そして今後のリスクマネジメントや国際的なイニシアチブまで多くの総括が必要だ。それは結果論ではなくコロナ禍の正と負の両方の側面から視点や議論が求められている。「現実としっかり向き合い深く考えた末に取り出したものは、他の人にも共有できる『普遍性』を帯びている。」(大堀精一)



















(ガストで配膳するAIロボット:表情を変えたり障害物を避けたりできる)


※参考文献

大堀精一、(2018 5 10)、『小論文の書き方と考え方』講談社選書メチエ

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