Tom
- May 8, 2021
『天気の子』(考察編)
非常に奥が深く、見れば見るほど味の出てくる『天気の子』。今回は、小説版『天気の子』を参考にしながら、重要な場面や監督の意図などを考察してみた。というのは、あとがきで新海誠監督は、「映画版と小説版の違いについて言えば、両者は基本的に同じものである」(小説版p.297)としているからだ。その原則は、「映画と小説では場合によっては仕込みが変わってくる。」にあるという。つまり、映像や音楽などで高銀号された映画と文字のみのである小説では演出が異なりつつも、この作品に関しては本質は同じということだ。それであれば、偏見なく映画の細部を理解し、解釈していくことができると考えたのである。以下、いくつかのテーマに分けて述べていきたい。 ※以下、映画の本編の内容を深く考えていく(ネタバレあり)。 なぜ穂高は豪雨の遭遇に喜んだのか? 帆高はさるびあ丸に乗船中、強い雨が降るというアナウンスを聞いてデッキテラスに飛び出す。その理由は、小説版にて、「僕はようやく心の開放感に満たされていた。」(小説版p.18)と記述されている。実際、デッキテラスを確認し、人がいないと分かって喜
Tom
- May 4, 2021
『生命と記憶のパラドクス』-福岡ハカセ、66の小さな発見-〜教養エッセイ集の見本〜
本書は66のエッセイ集から成り立っているが、理系分野の難解な用語はない。そもそもこれらは『文藝春秋』の連載記事を再編集したものだ。一般読者を想定して書かれているから、3ページ程度のエッセイはさらっと読める。 著者は福岡伸一氏で分子生物学者を専門としている青山学院大学教授だ。テレビ等にも出演し、本人の名前がクイズになるほど著名である。ベストセラー『生物と無生物の間』以外にも著書が多い。 それにしても、文章はユニークで最後のオチまで秀逸だ。そして、著書を読めばすぐ分かるのだが、とにかく読み手を惹きつける文章で、しっとりと終わる文章もあれば、落語のオチのような面白さもある。前書きや後書き、表紙を含めて構成が練られている。ただ、タイトルも含めて文庫本化するために無理に入れ込んだ感はあるが、それは仕方のないことなのだろう。 サブタイトルに「小さな」とあるが、特に高校生には学んで欲しい「大きな」教養が含まれている。自分の専門分野に関してこれだけ読み応えがある文章を書けたら幸せだろうなと思う。 ※参考文献 福岡伸一、(2015 3 10)、『生命と記憶のパラド