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今、求められている生徒指導 ―アイデンティティの確立と豊かな人間関係構築のために―


 現在の社会における子どもの実態を自己の教職経験から高校生に対象を絞ってその実態を記述し、その望ましい生徒指導の在り方を考察する。

 生徒指導の最終的な目標が生徒の自己指導力と捉えるとき、現在社会の構造変化の中で、生徒指導において2つの課題が挙げられる。

1. 社会貢献を目指した自己実現に対する意欲の欠如

 生徒が社会の一員として社会に貢献するための資質・能力を育てること、すなわち、生徒は学校という社会の準備段階において、社会でいかに生きていくかを体験的に学んでいく必要がある。しかし、ポスト産業社会の負の側面は、大きく生徒に影響していることは否めない。例えば、以下の体験を挙げることができる。高校一年生の担任を持った際、秋の三者面談で文理選択を決定する場面があった。生徒には事前に面談中で文理選択の最終同意を経て、以降の学校カリキュラム等の編成を行うと告げてあった。しかし、友達と同じが良いといった安易な理由や、中にはその場で私にその適性の判断を迫る場面もあった。このような経験から、生徒の自己実現や社会貢献に対する過度の受動性や自主性・主体性の欠如を読み取ることができた。実際、ニートやフリーターといった社会問題は、生徒にとって不可抗力的な社会構造の問題として捉えることができる一方、生き方・在り方を追求するべく教育のさらなる充実が要請されている。

2. 望ましい人間関係を構築・維持する能力の低下

 生徒の絆を強め、学級が心の居場所となることや、仲間を尊重し、いじめをしないといった教育目標は不易であるが、その問題行動の質は、従来のそれとは大きく変化したといえる。例えば、ある女子生徒は、異性のクラスメートとばかり仲良くする場面が多かった。スポーツが得意で、さばさばした性格のため、一見すると問題がないように見えた。しかし、後に、クラスの影響力の大きい女子生徒が中心になって、携帯電話のメールを使って彼女を無視しようといった趣旨の内容を送り合っていたことを突き止めた。この体験から、情報化社会は、学校外での携帯電話の使用という、学校が十分な管理可能な範囲を超えた教員からの不可視な問題を引き起こしていると感じた。こうしたことは、ネットいじめといった形で具現化され、社会問題となっているために、情報教育を含めてコミュニケーション能力の育成は重要な教育課題となっている。

 そこで、生徒が自己実現を目指して自己指導能力を育成することを支援すると共に、望ましい人間関係の構築・維持を目指し、自ら考え解決する態度を育むために、教師として、次のように実践することが大事であると考える。

1.生徒の自己実現及び社会貢献のためのアイデンティティの確立への生徒指導

 生徒が将来の自己実現に向け、社会の一員として社会に貢献できる資質・能力及び態度を育成することが大切である。そこで、第一に、生徒が生徒自身の素質・特性を理解し、自主的・主体的に行動することを促すことである。生徒の長所に気付き、新しい可能性を発見するため、生徒の指導履歴や家庭環境等の情報を教員間で十分に交換し、意図的・計画的に生徒への内発的動機付けを行い、生徒の内面に響くような心の関わりを持つことが重要である。第二に、生徒の自己理解を促進させる環境の整備と働きかけ、将来に対する自己判断力を育てることである。具体的な職業選択や進路指導に関する情報と共に、どのような生き方や在り方が将来可能なのかを想起させる情報を提示、そして、生徒が探求する機会を設ける必要がある。また、学級の中での役割遂行や生徒会や部活動等において、生徒が経験的に自己の可能性に気付けるような適時適切な指導・助言が求められる。第三に、具体的な将来の目標に対して、逆算して現時点で要求される水準を示し、その解決策を共に考え、問題解決能力を育てることである。生徒が試行錯誤する中で、実行可能な方策を実践し、適切なリスクマネジメントを講じる能力を育てることが重要である。こうした生徒指導が有機的に結びつくことで、生徒が自分のあるべき姿に気付き、自己実現及び社会貢献に結びつけることが重要であると考える。

2. 生徒の望ましい人間関係の構築・維持及び発展への生徒指導

 生徒にとって、学校における望ましい人間関係の基礎となるべき集団は学級であり、学級が心の居場所となるような学級経営を行うことが豊かな人間関係の有効な方策であると考える。すなわち、消極的な生徒指導と同時に、むしろホームルーム及び学級の活動を生徒と共に経営していく姿勢が大切であると考える。そのためには、規則の意味付け等のガイダンスから、生徒が自ら考え、学級のために行動できる雰囲気を作ることがための具体的なアクティビティ、例えば、生徒の実態に合わせたグループエンカウンターやソーシャルスキルトレーニングといったものを取り入れる方法がある。具体的な活動の選択として、直接的に人間関係の構築やスキルを上達させるものから、生徒が無意識的に実際にそうした能力を活用する機会を提供する計画的な学級行事の設定までを通して、生徒がお互いの立場を理解し、協力し合える関係性を作り上げることが教師の責務であると考える。特に、教師が生徒にとって信頼される存在であり、そのことが生徒の安心感を増進させると共に、生徒の心のケアに取り組むことが望まれている。松田(2008)の示すようなオンラインを用いた教育相談の実践例などはこれからの生徒指導での可能性を感じる。以上のように、生徒があらゆる学校活動の中で望ましい人間関係を作り上げることを手助けすることが重要であると考える。

 社会的文脈が変化することで、生徒はもちろんのこと、生徒の問題行動に対して求められる生徒指導は変化していくと考えられる。教師は、生徒が自己実現のための自己指導能力と問題解決能力の育成のため、それぞれが専門性を発揮し、教師の同僚性を活かした生徒指導を行うことが大切であると考える。

参考文献:

松田英子他、(2008)『教育相談におけるオンラインカウンセリングの利用可能性に関する展望』メディア教育研究第5巻第2号

裏C 、(2011) GHF'03「誰かが一言」


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