top of page

言語体系に応じた世界観の検証(概要)

 「サピア・ウォーフの仮説」を検証し、言語教育への応用を考察したのが卒業論文の研究内容である。サピア・ウォーフの仮説とは、個人の言語がその思考に影響を与えるという理論である。だが、「言語」は、言語の地理的差異による純粋性の度合い、歴史的な言語の広がりと消滅、そして言語と国家の関係等の理由で定義が難しい。

 そのような曖昧な言語と言語共同体の経験の関係は、個の経験を体系化したものが文法であり、ラングはそのパロールの影響下にあると一方通行的に認識されやすい。だが、実際には、ラングもパロールを支配している。実際、パロールによる経験の処理とは、言語使用の方法によって個の経験を表現する際に前もって選択させられている状態であると言える。ここで、言語は、数学の記号と同様、ある経験に対して一つの呼び方で共有可能な記号として存在していて、可能な限り洗練された記号である。よって、恣意的な存在であったとしても、話者と聞き手の間に共通の心象として、精神の中間世界が存在している。したがって、ある言語共同体の言語は、その性質及び諸科学に影響を与え、同時に影響を受けることも加味すれば、言語共同体の言語使用を見つめることは、その世界を深く切り刻んで分け入ることを意味する。

 このように考えてくると、言語学習とは、その対象の言語共同体の世界観を眺める行為と等しいことになる。これは、当然、現在の日本の英語教育にも該当すると思われる。よって、英語教育とは、英語を母語とする世界の認識方法、文化及び社会を学習することと同じである。また、英語教育の過程で身に付いた異文化理解のための基礎的・基本的な知識、態度及び技術は、他の言語学習や異文化の思考方法や経験を処理する際の道標になる。それは同時に、日本語を見るための鏡の役割を果たしているとも言える。なぜなら、英語学習者は、言語学習の過程で、意識的にしろ、無意識的にしろ、まるでサピアとウォーフが異言語を比較したように、学習者自身の認識方法や経験を再構築する作業を行っているからである。

 以上、述べてきたように、外国語を学ぶということは、四技能の習得に加えて、新しい言語を獲得することにより、今まで持っていなかった新しい思考様式・世界観を獲得することであると言える。そこで、英語教育を進めるにあたり、このような側面を意識しながら、英語教育を進めていく必要があるのではないかと思われる。

参考文献

E.サピア、 B.L.ウォーフ他、池上嘉彦訳 (1970) 『文化人類学と言語学』弘文堂

フェルデナン・ド・ソシュール、小林英夫訳(1986) 『一般言語学講義』岩波書店

P.トッラッドギル、土田滋訳(1975)『言語と社会』岩波新書

Tom 『言語体系に応じt¥た世界観の検証』(卒業論文) 2003年3月


15 views

Recent Posts

See All

『マンガでわかる!小論文 頻出テーマ編』〜大堀精一先生の新書でテーマを徹底理解〜

大堀精一は、「学研・進学情報」を監修し、小論文入試問題分析プロジェクトチーム編集長も兼任している、まさに小論文のスペシャリストである。『小論文 書き方と考え方』の著者で、私がこの分野で最も尊敬している方である。その方の新書が発売されたので、早速購入して読んでみた。 マンガではあるものの扱っているものは大学入試小論文の頻出テーマに絞った良書である。扱われているのは、「格差社会」「人口減少」「社会保障

第10回 夏の教育セミナー 2023〜生成AI時代の教育とは〜

夏の教育セミナーは新型コロナウイルス感染防止の観点からオンラインが続いていたが、4年ぶりの会場実施となった。ただ、私は諸事情で会場に参加できず、目の前で感じられる講師の熱弁や分科会の模擬授業を体験する機会などを得られなかった。ただ、オンラインでも東京及び大阪での実施を録画再生してもらえるハイブリッド形式であったのは有り難かった。 基調講演のタイトルは「教育改革の最新の動きを知る」だが、現行の共通テ

第9回 夏の教育セミナー 2022〜高大接続改革の脆弱性〜

第9回夏の教育セミナー(日本教育新聞・株式会社ナガセ主催)が今年もオンラインで行われた。例年以上に講座が豊富で、収穫が多く勉強になった。今年の目玉は、高等学校の新学習指導要領の施行に伴い、令和7年度の共通テストの内容とそれを考慮した授業改善だろう。特に、指導と評価の一体化の理論と実践には多くに関心が集まっていたようだ。また、カリキュラム・マネジメントや指導方法の改善による学校改革まで盛り込まれてい

Featured Posts

Categories

Archives
bottom of page