top of page
  • Tom

アドラー心理学4部作 『嫌われる勇気』・『幸せになる勇気』 『アドラー 人生の意味の心理学』 『子どもを勇気づける教師になろう』 <感想編>


 「なんのために生きているのだろう?」「教育って何だろう?」そんな疑問を抱いていたときに、たまたま動画サイトで『嫌われる勇気』を紹介されているのを見たことがきっかけだった。「アドラー心理学4部作」とは、『嫌われる勇気』・『幸せになる勇気』・『(100分で名著)アドラー 人生の意味の心理学』・『子どもを勇気づける教師になろう』の4作を、私が教員の立場から勝手に総称しているものである。アドラーの個人心理学の導入、理論、そして教育への実践と続く一連の著作であると考えている。

 『嫌われる勇気』は、アルフレッド・アドラーが確立した「個人心理学」を哲人と青年の対話を通して紹介したベストセラーである。筆者でアドラー研究家である岸見一郎とライターの古賀文建がプラトンの対話形式を用いている。従来の考え方とは一線を画すアドラー指導を読者の疑問に寄り添いながら進んでいくのでグイグイと引き込まれる。ただ、その内容は深く、体現が難しいものを含んでいるため、一読しただけでは本当に理解したとは言えないだろう。「そうかもしれないけれど、でもね…」というのが率直な感想である。

 『幸せになる勇気』は、ベストセラーとなった上記の続編で、「『勇気の二部作』完結編」と謳っている。しかし、もともと続編が予定されていた記述はなく、前作に便乗したようでクオリティーとしては物足りない。ただ、「若者」が教師としてアドラー心理学を実践したことに触れているので、教育関係者にとっては当事者意識を持って読むことが出来る。

 すでに触れたように、アドラー心理学はかなり難解だ。従来の原因論に出発する過去的思考ではなく、「今、ここから」という未来的な思想である。対人関係の捉え方、「課題の分離」「共同体感覚」「ライフスタイル」といった用語も正しく理解する必要がある。そこで、NHK100de名著『アドラー 人生の意味』(変われない?変わりたくない?)は、アドラー心理学を端的にまとめた参考書の役割を果たす。実際、「勇気の二部作」の内容はこの1冊で簡潔に説明されているので辞書的に手元に持っていたい。ブックス最終章では、「岸見アドラー学」とも言われている著者の見解を知ることも出来るだろう。

 アドラーは、教育こそが平和な社会を作ろとして教師への援助に興味を抱くようになった。アドラーの哲学は「勇気づけの心理学」として活用できる。子どもを勇気づけるための理論整理と実践事例を紹介しているのが最後の『子どもを勇気づける教師になろう!』である。キーワードを中心に具体的な心構えや言葉がけ、各章末には教室で使用できるワークも掲載されている。内容量として物足りない(非現実的な方策)部分もあるが、ガイドブックとして非常に有効である。

 以上が、「アドラー心理学4部作」の読後の感想である。アドラー心理学の理解は出来ても実践に移すにはかなり難しい。劇薬になるか毒薬になるかは、著者の言葉で言えば、「変われない?変わりたくない?」はその人それぞれかもしれない。ただ、この一期一会を大切にしたいと思っている。

※参考文献

岸見一郎・古賀史健(2013)、『嫌われる勇気』ダイヤモンド社

岸見一郎・古賀史健(2016)、『幸せになる勇気』ダイヤモンド社

岸見一郎(2018)、『100分de名著 アドラー 人生の意味の心理学』NHK出版

岩井俊憲(2013)、『子どもを勇気づける教師になろう!』金子書房


67 views

Recent Posts

See All

『世界一しあわせなフィンランド人は幸福を追い求めない』〜「人生の意味」をアカデミックに考える〜

フィンランドは世界幸福度ランキングで2年連続(2018年・2019年)で世界一位にランクインした。それ以前にも、フィンランドはフィンランド・メソッドで世界的な注目を集めていたため、家族が紹介してくれた。目次を眺めると、1部「人間はなぜ人生に意味を求めるか」、2部「人生の意味とはー新時代の視点」、3部「より意味深い人生のために」となっている。 この本の主題は、人生に意味に関する考察だ。そしてもしあな

「完璧=自己ベスト」

ストレスコーピングやメンタルヘルスの観点からすると「完璧」を求めることはしばしば自身の負担になることが多い。精神疾患を患ってしまう人はこの傾向が強く、また完璧を求めて自分を追い詰めてしまうこともある。ただ、その「完璧」を求めることが良い方向に進むこともあるらしい。 自転車競技の河野翔輝選手は、早稲田大学在学中にプロチームに所属し、全日本選手権トラックなど、複数のタイトルを獲得している。今後の目標は

『夜と霧』(新版)〜「生きる意味」のコペルニクス的転換〜

人は辛い状況に置かれた時に、その因果関係を追求する傾向があるのだと思う。例えば、困っている従業員は「なぜこんな会社のために働いているんだろう」と考える。個人的には、言うまでもなくあのアウシュビッツの強制収容所に比べたら比較にならないほど幸運であるが、それでも「なぜ生きているのだろう」と考えることが多い。従って本著は「生きる意味」を当事者として読めたように感じる。 『夜と霧』の主人公は、第二次世界大

Featured Posts

Categories

Archives
bottom of page