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アドラー心理学4部作 『嫌われる勇気』・『幸せになる勇気』 『アドラー 人生の意味の心理学』 『子どもを勇気づける教師になろう』 <実践編>

 実践するにはかなり難しい。それが率直な感想である。

 アドラー心理学では、「早期回想」を行い、子どもの記憶から現在の「ライフスタイル」(その人の言動を決定する軸のようなもの)を探ることがある。ここで、ぜひ自身の最も古い記憶を思い浮かべて欲しい。実は数ある出来事の中からそれを記憶しているには何かの理由(つまりライフスタイル)がある。例えば、父親に赤ちゃん用の織に入れられて、舌を出して反抗したとする。これが意味するものは、いざとなると反撃する力があるが、自分の思いを出せずに苦しむ人生パターンが浮かび上がる。従って、これからは「窮鼠猫を嚙む」「自分の思いを主張する」イメージを大切にすることが有効だというのが分析の一例だ。このように、古い記憶複数を集め、分析していくことで、より良い自分の生き方を探るのがライフスタイル診断である。ただし、専門家が側にいないと、自分自身を正確に解釈するのは困難ではないかと思う。

 さて、『子どもを勇気づける教師になろう!』では、学級活動で子どもを勇気づける活動として「無言の共同制作描画」というものがある。自分が完成図を想像して、一部のみの絵を書く。それを複数のクラスメートに渡して順番に渡して絵を完成してもらう。これによって生徒は、協力や貢献、または感謝の気持ちに気づくというものだ。これは学級づくりの初期に行うと面白いだろう。また、「勇気づけの落書き帳」というワークシートを応用し、自分の長所を記入させて、他者と自認している長所の違いを気づかせる活動もやった。こういった種類の活動は、生徒の自己肯定感を高めるには取り組みやすいだろう。

 ただし、アドラー心理学を日常や教育現場で応用するには困難さを感じることが多い。「共同体感覚」をベースにした、子どもの叱らない、対等な関係で生徒を無条件に信じて愛すること、といった概念は、うまく使いこなせないと非常に危険だ。アドラー心理学の理論を整理し、それに共感できないとやり通せないからである。このように、個人の経験を合わせて鑑みると、アドター心理学の理論は深く、そして実践のハードルは高いと言わざるを得ないだろう。

※参考文献

岸見一郎・古賀史健(2013)、『嫌われる勇気』ダイヤモンド社

岸見一郎・古賀史健(2016)、『幸せになる勇気』ダイヤモンド社

岸見一郎(2018)、『100分de名著 アドラー 人生の意味の心理学』NHK出版

岩井俊憲(2013)、『子どもを勇気づける教師になろう!』金子書房

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