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『ホモ・デウス』(上巻・下巻)〜人類の真理はどこにあるか〜

 AIの本質を探り、今後の人類のあり方や生き方を模索することは現代社会の大きな議論の一つである。本書は、テクノロジーと生き方の手助けになると思い長期休暇を利用して上下巻を読破した。著者のユヴァル・ノア・ハラリはヘブライ大学の教授で専門は歴史学である。『サピエンス全史』で世界的なベストセラーだ。ちなみに、訳者あとがきは難解な文章の解説的な役割も果たしている。

 人類の歴史と展望について、難解な部分もあるが、深く広い見識に基づいてダイナミックに捉えていることに驚くだろう。テクノロジーが急速に発展していく中で、人類の歴史的・哲学的な考察から歴史の未来を予測する。ここには筆者が歴史を学び検証することは私たち未来を予言するのではなく、選択肢を増やしていくことで世界を読み解くという理念がある。そのために、人類が歩んだ過去の総括を動物との比較を用いて私たちが創造し、「意識とは何か」という命題を踏まえながら、人間社会が維持されている暗黙の「物語」(虚構という名の取り決め)を詳細に述べる。そして人間至上主義の本質を炙り出すために、宗教・科学と対比させ、人間至上主義が世界を席巻しているプロセスの考察も圧巻だ。

 将棋の名人がコンピューターに負けた前後の時期から、人類とコンピューターの関係の議論が活性している。それでも人間同士の対局に魅力を感じるのは、意識を持った人間が将棋の真理を突き詰めようとするからだ。少なくとも私は生物学的に基づく幸せの解であるとき、人間が数式上の一部でしかないことの虚無感に耐えられそうにない。ただ、今後、私たちの世界は、あらゆる面でコンピューター・アルゴリズムに支配されることになるだろう。そうなれば、今は無法地帯のバーチャル世界でも現実世界と整合性の合うような制度の確立が求められる。

 ただし、本来の意味でのAIが誕生すれば、人類が今と同じような世界の支配者でいられるかどうかは定かでない。いや、むしろその過程でテクノロジーに依存しすぎた負の側面、例えば高機能兵器や世界的コンピューターウイルスの出現等による壊滅的打撃があるかもしれない。または、不老不死と全知全能に近い指数関数的な躍進による想像を絶するユートピアの世界の可能性もわずにかにあるのだろうかが、いずれにしてもそこに至るには、現段階では人間を含めた生き物がアルゴリズムであることを証明する必要がある。(涙を流す感情も非合理的な買い物をする行為は全てアルゴリズムなのか?宇宙にはアルゴリズムを超えた別の「真理」があることを期待したい。


※参考文献

ユヴァル・ノア・ハラリ、(2018 9 30)、『ホモ・デウス テクノロジーとサイエンスの未来(上)(下)』河合書房新社

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