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『自分ごとの政治学』〜日常と死者を背負う政治行動を〜

 選挙権の獲得の歴史を考えると、人類はこれまでの参政権を得るために多くの血流と失われた尊い命を失った。したがって、投票日に選挙会場に行かないことは歴史軽視でもあり、行使しなければいけない大事な権利なのである。そして、そのより根源的な政治の仕組みや、概念、哲学、日常との関わりを網羅的に学べるのが『自分ごとの政治学』である。

 著者は1975年大阪生まれで、現在は北海道大学大学院法学研究科教授。専門は南アジア研究史、日本思想史、政治学、歴史学。ただし、本書は高校生なら2~3時間あれば十分に読めるような政治の入門書となっている。内容は、政治学の基本用語、例えば、「右」「左」、や「リベラル」と「保守」を簡潔な説明から、筆者の研究対象でもある「カンディー」の示唆は、今後の政治を読み解くキーワードになるだろう。

 第4章「死者と日常の政治学」の部分も興味深い考察がされている。「民主」「立憲」という用語を切り口に「死者」との政治哲学までを提示してくれる。死者たちの思いを繋ぎつつ、日常から身近に政治を見ていく姿勢を大切にしたい。

 普段から自分が死ぬことを念頭に、今、ここで生きること(もちろん政治的な側面も含めての考察など)は、やがて立憲主義的な形で次世代に受け継がれていくことになる。その発見に責任感や爽快感(ある種の生きる意味の答えのようなもの)を感じた。冒頭の選挙のくだりの本質はそういうことだったのだ。この入門書を通して、過去のバトンを現在の私が持ち、それを未来に向けて考察するという政治の基本姿勢を身につけることの大切さを再認識した。



※参考文献

中島岳志、(2021/1/30)、『自分ごとの政治学』NHK出版

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