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共通テスト2024(英語 R/L)の分析と講評

「こんな問題、高校生が解き切れるのだろうか。」これが率直な感想である。毎年、奇問・難問・悪問が多い共通テストの英語問題であるが、今年は一層その程度が増している。平均点は昨年度と比較して、リーディング(R)は約2点低く51.54点、リスニング(L)は約5点高い67.24点であった。

 特に、リーディングは、すべて長文問題で語数が大幅に増加し、解答に時間のかかるものや、言い換え表現としてかなり距離がある問題も見受けられる。私は英検1級ホルダーであるが、それでも頭を抱えるトリッキーな難問や大幅に時間を削られる問題が多かった。また、大問5の小説問題は、今年1番の質量の難化で話題を集めているが、その中でも心情を問う設問は受験生にとっては非常に難しく感じたようである。その結果、平均点の見かけ以上に上位層は総崩れしていることが予想されている。某予備校の解説に誤りを見つけたが、それほど今年は難易度の高い問題であったとも言える。

 確かに今年の共通テストは英語による思考力・判断力・表現力等を測定する目的をより達成しているように見える。しかし皮肉にも、それが「極端な使える英語」に偏重し、大学個別試験のようなアカデミックさとの乖離が広がる結果となっている。長文読解問題も似た形式の問題を延々と解かせる忍耐の試験になっており、テクニックや訓練時間数が重要な試験になっている。これならば、例えば特異な共通テスト対策をするかわりに、総合型試験等、または個別試験に照準を当てる受験者も出てくるだろう。もしかしたら英検等を受験して優遇措置を狙う受験生もいそうだ。このように、実は戦略的に共通テストを回避することで受験者全体のレベル(平均点)は上がっているため、平均点が見かけ上は落ちてないと推測する。場合によっては、共通テスト対策を軽めにするほうが戦略的かもしれない。

 以上を考えると、共通テストの英語で、何をどう測るべきかを改めて問い直す必要がある(またはセンター試験の形式に戻すべき)と強く考えている。

 以下は、技能別及び設問別の分析と講評である。


【R:リーディング】

<第1問A:学校行事のお知らせ>

 昨年と似たデザインで、設問も平易だった。

<第1問B:日帰り旅行のお知らせ>

 本文は読みやすい。ただし、設問を解くために適宜本文で確認作業が煩雑である。

<第2問A:戦略ゲームクラブの勧誘>

 英文の量はそれほど多くないが、設問が巧妙に作られている。問題文の根拠が2箇所あるものは解きやすい。一方で、問2は該当しないものを選ぶ必要があるが、①の根拠は”participate in local and natinal tournaments”にすべきだろう。また、問3の”opinion”問題は、2022年に出題された「事実・意見」問題とは趣旨が異なる。③も遠からず正解になりそうであるが、①のほうが確実に正解の選択肢となるだろう。さらに、問10の解答の根拠は本文全体である。このように「本文の言い換え」の距離感が掴みづらい共通テストに特有かつ新傾向の問題が含まれていた。

<第2問B:海外旅行保険の情報>

 問題文も設問も平素で、解きやすい問題である。

<第3問A:日記のブログ>

 ここは例年通り平素な問題であった。ただし、問17は本文全体を踏まえて解く新傾向の問題だった。

<第3問B:旅行記事が載った学校新聞>

 各段落の要点・概要が理解できていれば比較的容易に解答を選べたのではないか。

<第4問:英語部の教室利用に関す記事と議論>

 本文は記事、棒グラフ及びアンケートの3つから構成されており、問題文はハンドアウトという巧妙な工夫が施されている。昨年度より情報量が多いため煩雑であるが、設問はシンプルである。

<第5問:小説 ”Maki’s Kitchen”>

 今年突如として現れた小説が出題された。登場人物も3人いる上に時系列も単純ではなく、分量もおよそ1.5倍(3ページ)になった。さらに過去のセンター試験にも出題されなかった心情推理等の新形式の出題もあって、一気に難易度が高くなった。来年以降の受験生に大きな影響を与える大問であった。

 時系列を並び替える問題は結果的に本文に出てきた順番通りであったが、限られた解答時間で根拠を見つけ出すのは相当難しい。問34も突飛な印象がある。問37・38の心情把握問題は、個人的には文脈を丁寧に追っていればさほど難しくはないと感じたものの、解答の根拠が文脈に依存する斬新な形式に面食らった受験生は多かっただろう。

<第6問A:時間に関する論説文>

 論路的な問題をハンドアウトにしていて、その空所を埋める問題であるが、内容がアカデミックで短時間に理解するにはやや難解である。設問が消去法によって解答するように設定されているが、これも言い換え問題の亜種である。

<第6問B:唐辛子に関する論説文>

 全体的に非常に煩雑な問題となっている。昨年と同様に専門用語が出てくるため一読してすべての情報を整理し切るのは困難である。そのため、細部を問われる問題は解答の根拠を探すために細部を検討することになるが、問44、問45はかなり時間が掛かってしまう。また、問48は超難問だ。これを残された時間で解答するには無理のある問題で、満点を取らせないための策略であるように感じる。


◎リーディング総評

 大問及び問題数は変化がなかったが、語数は約300語増加しておよそ6300語となった。また、出題方針に沿って、従来よりもさらに洗練かつ巧妙な問題が増加し、奇問・難問も増えている。共通テストとしての難易度は最も高く、高校生がこれを80分で解くことはほぼ不可能であろう。



【L:リスニング】

<第1問A::短い発話>

 解答の根拠が本文の一部であることが昨年度と大きく異なっている。問3は紛らわしいだろう。

<第1問B:イラスト選択>

 音声が聞き取れれば確実にイラストを選べるので高得点を狙いたいところ。

<第2問A:イラスト選択>

 第1問Bと同様で解きやすい問題であった。

<第3問:短い会話>

 全体的に聞き取りやすく、問題も平易であった。問17は設問がトリッキー。

<第4問A:イラスト並べ替え+図表完成>

 前半は、図表完成問題がなくなり、2年前のイラスト並べ替え問題に戻った。

 後半は、従来は計算や整理をした上で表を埋める問題であったが、今回はそいういった煩雑さがなくなり、代わりに本文の言い換えを埋める内容に変更されていた。この新形式に戸惑った受験生も多かったと思うが、内容は平素であった。

<第4問B:図表完成>

 聞き取る条件をしっかり整理しておけば解答できそうである。表で条件に合っているものに「○」を書き込んでいけば良いだろう。

<第5問:講義>

 音声はゆっくりであるが、設問が難しい。前半では、特にワークショップの空所を埋める問題28~31を埋めるのに苦労するだろう。短い時間の中で集中して情報が出てくるので、言い換えの選択肢を探すのは相当難度が高い。

 後半の図表問題は、リード音声の中に正解の解答の根拠はない。数十秒でこの問題文を読み、グラフと照合させる作業は高校生には不可能だろう。

<第6問A:長い会話文>

 昨年同様に会話の流れ及び概要を理解する姿勢で望めば正解の選択肢も選びやすいだろう。

<第6問B:主張把握>

 例年と比べて音声の内容が非常に分かりやすくなった。逐一、誰が誰に話しかけているのかを明示してくれる非日常的なスクリプトのおかげでもある。最後の問37 は言い換えの距離がやや遠いが他の選択肢が明確に間違いである。


◎リスニング総評

 アメリカ英語以外にもイギリス英語、日本語英語が入ってきている点は変わらない。全体的には昨年度よりやや簡単になったように感じるが、馴染みのない新傾向の問題に苦戦した受験生も多かっただろう。また大問5の講義の問題はかなり難易度が高く、総合的に高得点を取るのには、十分な対策と訓練が必要である。

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