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早稲田の古書店街

 大学受験の12月の午後だった。高田馬場の駅を降りてとぼとぼと、でも心の中はぎらついたものを持ちながら歩いた。大学受験の第一希望は早稲田大学の社会学部と決めていた。globeの『Winter comes around again』を聴きながら、もう受験勉強は今年で終わりだと心に誓っていた。1浪してどこも合格できなかったらきっともう親は助けてくれないだろうから。

 明治通りの交差点を抜けると、通りに面して古本屋が現れる。おそらく最初に左手に見えたのは平野書店、三楽書店、文省堂書店だろう。私はそのままいろいろな古書を横目に見ながら西門通りに入り、おそらく八幡坂まで戻ってきて南門を過ぎて正門に行ったようだ。「馬場歩き」の中でも「古本屋巡り」としてはベストな道順であったかもしれない。ちなみに、帰りは早稲田通りの反対側を歩いたので、本棚にいろいろな赤本が並んでいたのを記憶している。

 長年の夢が叶って早稲田に通うことになったが、今度は自転車で早稲田通りから西門通りを疾走することになった。授業に間に合うことが第一優先だったから、古書は奥から手前に猛スピードで流れる画でしかなかった。帰りに赤本を懐かしむこともなかった。本当に忙しかった。だから、本当に大切なものを見つけることもなく卒業してしまったような気がする。

 早稲田の古書店はここ30年程でだいぶ減ってしまったようだ。それでも、今風の新興店も出てきていて新しい活気が出ている。決して新書だけを扱つ大型の書店が立つこともない。このように早稲田の古本街は独特の雰囲気を醸し出している。そこが早稲田らしさのような気がする。


※参考文献

早稲田大学校友会、(2021・9)『早稲田学報』

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