『”他人”に振り回われない心の作り方』〜「信念」を書き換える〜
「あなたはこんなことで困っていませんか?『いつも他人の顔色を気にしてビクビクしている。』『相手が少しでも不機嫌増だと自分のせいだと考えてしまう。』「なぜかあの人といると振り回されて、イライラする」(表紙より)一度は似たような経験もあるだろうし、深刻に悩んでしまうこともあるだろう。本書は認知行動療法を用いて人間関係を改善し、新しい生き方を模索する考え方と方法を提唱する。認知行動療法とは、認知(考え方)の歪みを矯正し、自分らしい生活を送るための精神療法のことである。
著者の中島美鈴は、広島大学大学院で教育学を専攻後に精神医療に関わる。その米国で集団認知行動を始め、東京大学の助教等を経て、国立精神・神経医療研究センター等で認知行動療法を専門に携わっている。『ADHD脳で困ってる私がしあわせになる方法 : 普通を目指さなければ「ツライ」は驚くほど「ラク」になる』(主婦の友)など書籍等の出版物は34にのぼる。
認知行動療法の専門家らしい内容で、人間関係で振り回されないたに、読者の認知の歪みの種類の提示と、その根底にあって不安や恐れを引き起こす無意識の領域(本書ではそれを「信念」よんでいる)を提示する。後半は、それらの「信念」を書き換える方法と、対人関係改善方法、さらには、自分らしく生きるための「自尊心感情」の作り方を述べている。
ただ、認知行動療法を専門家の力を借りずに独力でできるかは疑問符が付く。本書の質は高く、あとは読者が各自で実践するだけあるのだが、それが難しいと思うのである。もちろん本書でも事例に対してその解釈及び改善方法が提示されているのが、いざ自分の問題として客観的に解釈し、適切な改善方法に導けるか自信がないのである。
それでも、本書のクオリティーは高いと思う。専門用語はなく、実例を踏まえながら展開されているので、筋が通っていて、非常に読みやすい。心理学や教育関係者等が認知行動療法の日常的にも応用できそうである。また、タイトルの”他者”にクォーテーションマークがついている。人間関係の問題解決の本質は「自分を大切にする」という「信念」なのだろう。
※参考文献
中島美鈴、(2016 5 31)、『”他人”に振り回されない心の作り方』大和出版
Recent Posts
See All2021年、早稲田大学に「国際文学館」、通称「村上春樹ライブラリー」がオープンした。校友会(卒業生)である村上氏の寄付がきっかけとなり、「文学の家」として「キャンパスのミュージアム」化に貢献している。ここには村上春樹の著書だけではなく、彼のレコードやCDのコレクションも置かれている。彼の世界観をいつかは感じてみたいとまずは短編を手に取った。 ストーリーはと短く、場面のほとんど車内のドライバーとのや
新型コロナウイル感染が世界中に拡大し、医療・経済・教育などあらゆることが変化し、多くの議論が行われている。現実問題として医療や経済などに目が向かいがちであるが、終息する気配もなく、どこが退廃的な雰囲気が醸成されているのはなぜだろうか。 大澤真幸の論考「不可能なことだけが危機を乗りこえる」(『思想としての新型コロナウイル禍』)はその中でも社会学の視点で論理的にコロナ禍を考察し、今後の展望を述べている
AIの本質を探り、今後の人類のあり方や生き方を模索することは現代社会の大きな議論の一つである。本書は、テクノロジーと生き方の手助けになると思い長期休暇を利用して上下巻を読破した。著者のユヴァル・ノア・ハラリはヘブライ大学の教授で専門は歴史学である。『サピエンス全史』で世界的なベストセラーだ。ちなみに、訳者あとがきは難解な文章の解説的な役割も果たしている。 人類の歴史と展望について、難解な部分もある