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ニッポンの健康 〜新しい医療概念の時代へ〜


 厚生労働省は2016年の新規の癌患者は99万人を超えたという統計データを発表した。これは国立がん研究センターによると、すべての病院に報告を義務化したことによって初めて得られた集大成のデータだと言う。癌の治療法は年々向上しているが、それでも多くの人が深刻に捉える病気の1つであろう。にも関わらず、今までは各県ごとに医療機関が任意のみデータを収集していたために全国規模の正確な統計がなかったのである。基本的なところが抜けていないか?

 医学の基礎ということであれば、理化学研究所理事長の松本紘氏は読売新聞のインタビューで次のように発言している。「『競争的研究資金(競争資金)』を増やすようになりました。研究者が応募し、審査を受けて獲得する研究費のことです。その結果、研究者は応募書類作りと競争に追われるようになりました。」つまり、長い地道な基礎研究の土壌に競争という原理は適合しないことであり、したがって将来の大きな懸念を表明することになったのだ。

研究の成果が十分に出るか、それとも出ないのか。そんな怪しいものにいつまでも投資をすることはできない。研究していくには十分価値があるだろうと思われる分野や内容を精査し、その成果をどのように社会に繋げていく視点が必要だ。(だから階級や担当する事務作業等によってベイシックインカムを設け、それ以上は研究実績によって給与が決まるといった制度設計があっても良いだろう。)そして、大学を中核にした地域や企業との連携でより豊かな生活への足掛かりにしてもらいたいのだ。

唐沢剛氏は早稲田学報で「高齢化が進んだことで、健康と病気の境界が曖昧になり、(中略)健康観の多様化や、社会保障費の膨張を背景に、健康づくりのさまざまな取り組みが生まれました」と述べている。地方自治体や企業、大学が、健康的なまちづくりや健康経営の推進、健康科学の経営を進めている。特に、私たちはいずれ最期を迎えるにあたって、出来るだけ痛みのない医療を求めたい。だから私は強く緩和医療といった終末期医療の在り方を真剣に考えなければいけないと考えている。従って、私は基礎研究やビッグデータを活用した先進的な地取り組みが、自治体、大学そして医療現場が相互に良い影響を与えなることを強く期待していると考えるのである。

※参考文献

読売新聞、(2019/1/17)、「がん患者、新たに年99万人…トップは『大腸』」

国立がん研究センター、(2018)、全国癌登録とは(https://ganjoho.jp/reg_stat/can_reg/national/public/about.html)

読売新聞、(2012/12/11)、「日本の研究力 黄信号」

早稲大学校友会、(2018・2) 『早稲田学報』


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