top of page
  • Tom

チョムスキーに挑む最新理論とその可能性


 理論は簡潔で汎用性が高く、さらに実用的であればなお優れているだろう。人間がどのように言語を習得するかということで一時代を築いたのが、チョムスキーの「普遍文法」である。人は生まれながらにして文法スキームを持っているというものだ。その後、様々な実証に反論すべく、その改定理論となる「原理とパラメーター」モデルを提唱した。それは、諸言語の核文法を想定し、文化等の相互作用によって表出するという理論である。その後の理論も実証的に反駁されている。

 そういった流れで新しいパラダイムが登場している。それは、認知言語学や心理学からのアプローチだ。「用法基盤モデル」と言われている。それは、子どもは生来、汎用的なツールを持っており、社会的な相互作用による経験値から独自に言語を学習するモデルである。つまり、新しい視座として、代数的規則やレキシコンを必要としない認知機能、例えばスキーマ化や習慣化、自動化といった処理機構が存在するのではないかという言説である。

 どちらも興味深く、しかしその妥当性を示すのは非常に難しい。個人的には、両者の説が脳内神経で入り混じって作動しているように感じる。だから、その明確な答えを導き出すには、歴史的な遺伝の観点から育成環境まで幅広い研究が必要になるだろう。

 ただし、そこで得られる新発見は、我々の母語の正確な獲得に大きく貢献するはずだ。また、それが第二言語習得理論に結びつくような革新的な教授モデルが開発されれば、言語教育に多大な利益をもたらすことになるだろう。どういった理論が最終定理になるか分からないが、仮説と実証の往還を繰り返すことで、私たちは言語学の大きな革命に近づくかもしない。

※参考文献

P.イボットソン/M.トマセロ、(2017)、『日経サイエンス 2017 05』「言語学の新潮流 チョムスキーを超えて 普遍文法は存在しない」


17 views

Recent Posts

See All

新型コロナウイル感染が世界中に拡大し、医療・経済・教育などあらゆることが変化し、多くの議論が行われている。現実問題として医療や経済などに目が向かいがちであるが、終息する気配もなく、どこが退廃的な雰囲気が醸成されているのはなぜだろうか。 大澤真幸の論考「不可能なことだけが危機を乗りこえる」(『思想としての新型コロナウイル禍』)はその中でも社会学の視点で論理的にコロナ禍を考察し、今後の展望を述べている

AIの本質を探り、今後の人類のあり方や生き方を模索することは現代社会の大きな議論の一つである。本書は、テクノロジーと生き方の手助けになると思い長期休暇を利用して上下巻を読破した。著者のユヴァル・ノア・ハラリはヘブライ大学の教授で専門は歴史学である。『サピエンス全史』で世界的なベストセラーだ。ちなみに、訳者あとがきは難解な文章の解説的な役割も果たしている。 人類の歴史と展望について、難解な部分もある

熊代亨は著書『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』の中以下のような指摘をしている。現代の私たちは、売買やコミュニケーションを担保する法制度と空間設計、それらに適した通念や習慣が徹底された社会の仕組みから便宜を得られる人がいる一方で、人々が他者と共有できない世界観の存在を見落とす可能性がある。こうした仕組みは私たちを効率性や社会契約の内側へと訓練し続け、内面化された通念や習慣から

Featured Posts

Categories

Archives
bottom of page