『生きる意味』 〜生きづらさの原因を探る〜
「夢や目標を持って生きよう!」そんな当たり前の言葉が高校生の心に響かない。それは大人でも同じなのかもしれない。使い古された陳腐な言葉だからではないだろう。私たちが存在する社会制度や時代の流れから無意識のうちに「生きる意味」を見失ってしまったかっらで、本書はその理由を論理的に推論し、「生きる意味」を見出す方策を論じている。
そのロジックは確かだ。私たちは、業績評価や経済目標といった数値に縛られて生活している。そこでは、客観的で意義申し立てが出来ないような状況に置かれ、個人は捨てられ、組織や社会としての効率が求められている。その後、バブルが崩壊し、グルーバリズムと構造改革によって激しい国際競争に飲み込まれた。そこでは社会、すなわちコミュニティーは誰も私を助けてくれない。私たちは「自由」と引き換えに「(自己)責任」だけを残されたのである。
前半までの作者の鋭い洞察力と確かな推論は今の社会の在りようを理解するのに非常に有効である。ただし、「前半まで」という但し書きがあるのは、後半にかけての未来の展望がやや万人受けしない感じがあるからである。確かにここまでのロジックを考えれば、私的な「苦悩」を乗り越えた「私たちの成長を内側から見る目」=「内的社会」を「中間社会」、すなわちコミュニティーの中に求めることは理にかなっている。しかし、だからといって、例えば、セルフヘルプ・グループに積極的に参加できるかと言われれば(個人的には)二の足を踏んでしまう。もちろん筆者がそうした活動の具現化として「仏教ルネサンス塾」を行なっていることは机上の空論ではないことを表しているのが。
いずれにしても私たちが、なんとなく感じる「生きづらさ」や無慈悲で厳しい「他者の目」が私たちの生きがい、すなわち「生きる意味」を失っている原因であることが分かる。グローバルな市場にはローカルな私情はいらないということだろうか。筆者はそんな「生きる意味」の喪失を危惧し、「社会の力を変えていく力」を提供することを願っている。
※参考文献
上田紀行、(2005 1 20)、『生きる意味』岩波新書
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