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『小論文 書き方と考え方』 〜「書く」とは何か〜


 私は職業柄、高校生の英検や模擬試験の問題などを解く機会がある。過去問題集の模範解答のページには解説も掲載されいるが、中にはなぜその答えに辿り着くのかが書かれていないことがある。解説の例としては、「13行目に~と書いてあるので答えは…」といった感じだ。内容をじっくり味わいながら読む方法から受験テクニックまで解法は多様だからであろう。だから、生徒には私が示す模範解答にたどり着くまでの思考のプロセスを重視するように伝えている。「答えの向こう側を掴め。」ということだ。

 今回紹介する『小論文 書き方と考え方』の筆者は、こうした思考の手順を論理的思考と呼ぶはずだ。小論文、つまり論理的な文章を書く力を養うために、名著・名文を全部またはその一部を抜粋し、その書き手がたどったロジックを辿るという手法を取っている。斬新で明快だ。だから、ここで書くための基本鉄則を何度も潜ることで徐々に必要不可欠な論理を獲得することができる。また、本書は社会問題や社会通念に関する素材を用いて論点の整理や分析方法、文章構成の方法を提示していく。筆者の長年の知識と経験が凝縮されていて内容が濃い。

 さらに本書の推薦理由はこれだけにとどまらない。第一に、そもそも「書く」とはどういうことかいう哲学的な内容まで提示してくれる。第二に、入試小論文からはじまり現代社会の議論を経て、日常の論理にまで気付かせてくれる。人間として「書く」という行為の意味を感がさせてくれる。だからこそ筆者の論理的で魂のこもった本書の終着点、「自分のことばを持ってリアルに生きる」という湧き水が心に染み、生きている実感を持てるのである。

 大学入試で必要に様られて書く高校生には、やや情緖で難解な部分もあるが、それを乗り越えるには自身の研鑽しかないのだ。それを克服することで無味乾燥な小手先のテクニックではなく、「書く」という人間的な本質的行為の必然性に気付くことができるのだ。それは教職に着いている私を含むすべての者に関わることだ。だから私は「書く」のだ。この明緒は「書く」ための私のバイブルである。

※参考文献

大堀精一、(2018 5 10)、『小論文の書き方と考え方』講談社選書メチエ


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